オルタニア2号解説
ワンタイムキー 茶屋休石
全体の仕掛けのアイディアからして秀逸。テキストで可能な限りのめいっぱい工夫した仕掛けで読者を翻弄するSF。しかもこの話のお陰でこのオルタニア2号全体が仕掛けになるのが妙味があって良い。鍵というモチーフの咀嚼もまた十分になされて文芸的な仕掛けに昇華されていて興味深い。『ウンベルト・エーコの文体演習』風味ももった、ステキな知的推理にもなっている。著者の書く上での実力の有り余りかたもあって、安心してこの仕掛けを堪能できる。
ボックス、アプロックス 波野發作
シュレーディンガーの猫を使った推理。しかし、その使い方は…。たぶん多くの人がラストで「あっ」と思わされ、なおかつ著者の仕掛けた罠にまたはまってたことに「あっ」と思うのではないか。とくにSFが好きな人ほどこの罠にはまるんじゃないんかな。しかしそのあとからどんどんその合理性に気付かされてまた再読したくなる。そしてそこでまたさまざまな小ネタにもまた気付く。実に味わい深い作品。
49パラグラフにも及ぶリロの素晴らしき生涯(その半生)前編 伊藤なむあひ
「アルジャーノンに花束を」を思い出すような雰囲気の不思議なSF。どこかミヒャエル・エンデ風味が入ってくる。非常に早熟なリロの不思議な体験もさることながら、そのリロの生きていく姿に涙を禁じ得ない。それでも素晴らしい人生なのだから。個人的に「ぼのぼの」を思い出すところもあり、いつもながらモチーフもテーマも非常に難解に攻めているのに、その文章を平易でありながら飄々と緻密に書き込む作風がステキ。
繭子 淡波亮作
王道のSF。これもうかつにネタバレしてしまうので内容についてはあまり書けないのだけど、往年のSF冒険もののエッセンスを継いでいるのが好ましい。ラストをあえて省略したのだが、多くのSF読みにとっては自明であるから省略したのがまた正解であると思わされる。期待をいい意味で裏切らないところがこの著者の真摯な作風で、安定している。
オルタナ茶話会「SFと漫画の果てなきスパイラル」
実に興味深い。それぞれがSF漫画に影響されてSF小説を書いているのが良く分かる。あと少し昔のSF漫画が多いのは世代的に仕方のないところか。それでも最近のSF漫画の名作を研究していたり、子供に今のSFアニメについて学ぶメンバーもいたりとそれぞれに多彩。メンバーのさまざまな好奇心のあり方が見えるのが面白い。
私を追いかけて 米田淳一
怪異と夢と奇跡、といいながら、書くことの「業」に迫る作品。分かっちゃいるけどやめられないという業そのものがそのまま。もうこのまま行くしか道は残されていないのだが、それでも迷ったり葛藤してしまうのもまた業の業たる所以なのかも知れない。(って自分の作品にこんなこと書いてる時点で負けだよね)
詐欺師の鍵 第2話 山田佳江
体験は徹底的にSFな体験をしているのに、それをありそうな日常のなかで淡々とやりすごす主人公。しかし、SFな体験はやり過ごせずにやってくる。そしてますますその『詐欺師』の存在と謎が大きく迫ってくる。ちょっとメタな見方だけど、この図式は著者の物語を書く上でのSFとの関係性もまた示しているのかも知れない。さらりと書いているようでも、そこにしっかりSFの血が流れているのが分かるのがとても興味深い。
サッドモップ 進常椀富
青春の一ページのような風景からまさかのハードSFへ。超展開とはまさにこのこと。バッチリとハードになるんだけど、どうハードなのかを書いてしまうとネタバレになるので自粛。しかし読了後の充実感、重量感、そして物語として大事な高低差もじつに素晴らしい。今回の巻末を飾るのにふさわしいと深く納得させられる。