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オルタニア創刊号解説


大滝瓶太「オラクル」

 知性そのものを問うSF。神とか宇宙とか演算とかチューリングマシンに触れながら進んでいく。  意識は実在するかすべては幻想か、っていう議論について、意識が実在するってのは自分が実在してるって無批判に思っちゃってるだけで、自分だって実は幻かもしれない。しかしそんなもの幻でいいと言ってられないことって時々人生に生じる。そこで自分をコミで意識ってなんだろう、と考える深い思索がこの作品にはある。物事に対して人はみな傍観者でいられないのだけど、にもかかわらず人は究極的には傍観者でしかいられない。  知性もそうなのだ。今反知性主義なんてものが時折出てくるけど、知性そのものを疑わない知性もまた知性ではない。その厳しさを壮大なスケールで描く、鋭い理知が光るSF。

山田佳江「詐欺師の鍵」

 いつも平易で自然なスタイルでやっても、しっかりSFになるのがこの作者の持っている妙味。  この作品も一見素直に始まるのだけど、読むとSFの要素が深くしっかり織り込まれていて実にSFマインドをくすぐる。一つの不思議な体験から、それが単純な成功譚にもならず、かといって悲劇でもない。ただ、その不思議な体験をくれた人物との再会、そしてその人物への疑惑。単なる詐欺? あるいは世界観を動かしてしまうほどの能力者? あるいはもっと壮大な世界システムの存在?  撒かれた謎は、SF推理としてどこに至るのか。幾重にも張られた伏線が織り込まれ、読者に挑戦してくる。読者としても期待が高まる。

米田淳一「シャノン・ドライバー」

 いつもの鉄研の話です。相変わらずです。みんなワイワイの賑やかな作品。  でも、他の方が予想以上に全力出してるので、出し惜しみは良くないなあと出し惜しみなしにしました。そうなると私の場合全部載せになってしまうわけですが。だってほかの方のみてビビったんだもん。  というわけで鉄研の迎えた2020年、オリンピックイヤーにおきたSFな話。いや、「鉄研でいず」はちゃんとSF方向に拡張していく準備工事済みだったんですよ。だからあんな設定もあったわけだし。ただなんとなくでいろいろ設定しているわけではないのです。  ラストちょっとエグい感じになりましたが、でもその分ハードに出来ました。

ろす「ロール・オーバー・ベンヤミン」

 デジタルコンテンツの論考でよく言及されるヴァルター・ベンヤミンを使いながら今の新たなメディアの勃興の様子を俯瞰して、同じく浅田彰や島田雅彦など現代思想の旗手を見上げていた世代である我々の心をざくざくエグって来る論考、かと思って読み進むとただの論考ではない。ファミコンに出会い、デジタルコンテンツと現代思想に触れながらイタい議論やダベりを楽しんできたさまざまな友人との日々を思い出させてしまうような、とても豊かな文芸の味わいが満ちている。そしてその青春は実は……。  こういうモチーフも扱えるのが広義のSFの良さ。ボブ・ディランも文学の一分野なんだけど、文学はSFの一分野。そのSFの幅の広さをまた認識させてくれる作品。これは間違いなくSFです。

淡波亮作「痛みの見せる夢」

 東側のSFではなくて、西側からみた東側世界のSFな感じがまた独特な世界。その世界で情報ネットワークを自在に使う能力を持つ刑事の話。その卓越した能力で事件を解決してきたのに、彼もまた全能ではなく、更に彼自身も自身をすべて知らない。そこをついて、とある事件を巡って思わぬ罠が彼を襲う。そしてそれは、彼もまた知らない彼自身の能力を解き放つものだった。  作品の描く時代は限定されていないけど、あえて限定せず省略したところで読後に思索する楽しみが増えている。まさに省略の妙を見せてくれた。読後の感覚も鮮やかなホラーSF。

波野發作「プラトーン・スタンダード」

 ベテラン降下騎兵たちによる精鋭小隊が惑星降下作戦に挑む、んだけど……。  私には当然実際の経験ないので想像しかないが、まさに「あるある」っぽい話の連続。これ自身はいろんな職場である話だし、また旧海軍OBでもこういう座談会を海上自衛隊の雑誌「波濤」でしていたような。「山本(五十六)さんはねえ」とか「米内(光政)さんはいつもねえ」なんて座談会。でも、これはそれよりもっと現場よりのベテラン下士官たちの精鋭部隊が惑星降下作戦に挑む寸前、ちょい時間が余って、それで軽口で上司の悪口大会になるという。うわ、なんというすごいリアリティ。職業もの小説として楽しいし、たぶん実際普通にアメリカ海兵隊とかでもありそうだよなあ、こういうシチュエーション。そういうリアリティ。実にミリオタの心をいい感じにくすぐる。それでいてばっちり重量感ある戦闘シーンがあるのが実に気前のいいSF。  作りこみ密度が高くて、初回読んだあと再度読んでもさらに仕掛けに気づかされて思わずなるほどなと思わされる。分厚く楽しいミリタリーSF。

伊藤なむあひ「アルミ缶のうえに」

 私は北海道の夕暮れを深く知らないから東北の夕暮れから類推するしかないんだけど、ああいう北の方の夕暮れって関東よりさらに寂しさがある。そんな非常に叙情的かつ映像的で、それでいながら奇をてらってないけどシュールさのあるSF。水木しげるのSF短編を思いだすけれど、さらにすごく冴えている。内容は思想的にも深いところへつながっていながら子供向けに近い平易さでモチーフをさらに引き立てている。途中に繰り返されるカットインが、さらにそれをとても鋭く鮮やかな、ロジカルなSFにしている。端正な作風がまた独特。


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